数日前に友達から、ウィーンのピアノメーカー、ベーゼンドルファー(Bösendorfer)がヤマハに買収されるらしいと聞いて驚いた。まだ交渉の段階みたいだが、どうやら100%ヤマハの傘下に入りそうである。
そして僕の一番好きなピアノ、それがベーゼンドルファー。
スタンウェイ(シュタインウェイというか、Steinway & Sons というか)の眩いばかりの透き通った金属音も華やかで好きだし、ベヒシュタイン(C.Bechstein)のしっとり大人びた音、ごまかしの効かない素直な音の立ち上がりも怖いけど魅力的だ。でも自分にとってベーゼンドルファーの、特に中低音の木の温もりを感じさせる響きは、魅力的を超えて魅惑的。
インペリアルの別名がついた97鍵のフルコンサートを前にしたら、視野の左端には異様な存在感を放つ黒い鍵盤たち、正面には赤銅色に光るフレームが、これだけで相当テンションは上がり、血管に触れなくても脈が測れる。さらに音を出した時の感覚は、表現に困るけれど、勝手な想像でものを言うならば、50年ものの泡盛古酒とかマッカランの30年なんかを口にしたら、結構似たような感覚を得られるんでないかな~、とか思う。
好みが人それぞれなのは当然だし、僕のような素人は普段、世界何大ピアノなどと言われるようなピアノに触れる機会なんて殆どないから、自分の中で相当に美化されてるところもあるかもしれない。それでも、あの音の奥行きと充実感は、至福の時を提供してくれる。惜しむらくは、自分の技術のおそまつさ…この指たちはロクに言うことを聞いてくれない。
ちなみに、ベーゼンドルファーほど有名ではないけれど、温かみのある優しい音を奏でるペトロフ(PETROF)という好きなピアノがある。チェコのピアノで、個人的には上に挙げた御三家の中では、最もベーゼンドルファー寄りじゃないかと思う。このペトロフ、素晴らしい音の割には知っている人が少なくて、もっと日の目を見てもいいピアノだと思うので、紹介しておきたい。
とにもかくにも、ベーゼンドルファーがヤマハに買収されるというのは、かなりショッキングであり、でも同時に親会社が日本企業だと何か少し身近になった気もして、複雑である。ヤマハはいい楽器もたくさん造ってるし、合理性を優先して伝統あるいい音を簡単に捨てるような真似はしないと信じているけれど、とりあえずブランドだけ手に入れて満足するのだけは避けてもらいたい。技術力も結構、どんどん活用もしてもらいたいが、楽器メーカーたるものそれ以上に感性といい物への拘りはしっかり持っていてほしい。大前提として、ベーゼンドルファーの音を大切に、末永く守っていってくれることを切に願うばかりだ。
RELATED POST